何故か主人公にムカついてしまうマンガ『加治隆介の議』

今回のFantastic bookは見出しを見てもお分かりの通り、『加治隆介の議』の主人公に関する文句がメインテーマです。
マンガとしては良作なのだけど、どういうわけだか、主人公にムカついてしまう作品ってありますよね。
「お前さえいなければ、素直な気持ちでいられるのに!」と、その場の怒りにまかせて、思わずブックカバーを外してしまったという経験がおありの方も、いらっしゃるのではないでしょうか?
当カテゴリーの記者は、今まさにそんな気分です。
同作品の主人公を愛してやまない読者様には誠に申し訳ありませんが、読後の怒りがおさまりきらないので、今回は自分勝手にガンガンいかせて頂くことにします。
※当カテゴリーには少々のネタバレを含んでおります。
加治隆介の議「 結局は自分のことしか考えてない人」
『加治隆介の議』は、マンガとしては珍しい政界を舞台にした作品です。
作者は島耕作シリーズで有名な弘兼 憲史。作品の題名である『加治隆介の議』の『議』は鹿児島の方言で『理屈』という意味で、作中も重要な場面で象徴的に使用されています。
読後の感想としてはっきりと言えるのは、この男の議(理屈)は今いる政治家と対して違いないということですね。
物語は東大卒のエリートサラリーマンである加治隆介が、政治家である父親とその後継者であった兄の死をきっかけに、政界に進出するところから始まるのですが、この設定は考えてみれば、政界では良くある話。元サラリーマンが、脂ぎった政治家達をやり込めて行くという話を期待していた私には、完全に期待外れの主人公でした。
だいたいこの加治隆介のやっていることって、普通の政治家のイメージと全然変わらないんですよ。むしろ、それに忠実に動いているといってもいい。
序盤で政治家になるために、サラリーマン時代の浮気相手と別れるという下りがあるのですが、理由はどうあれ、それって結局は自分のことしか考えてないってことじゃないですか。
しかも、それがちょっと悲しくも切ない大人のエピソードみたいな感じに描かれているんです。
こんなことを言うと、「世の中そういう現実もあるんだよ、まだまだ青いな」とか言われてしまいそうですが、これから唯一の立法機関である国会に進出しようという人間が、結婚という国の法制度を否定していた行為をしていてはいけません。
たとえ出馬をしつこく打診されたとしても、「結果的に僕のような人間が出馬するのは国のためにならないから…」と、浮気の経験があることを理由に最後まで断り続けるのが、本当に国のことを考えている人間の筋というものでしょう。
モテない男の嫉妬心は別にして、なんでお前みたいな奴に日本を動かされなきゃいけないのよと、眉間にしわを寄せて突っかかってやりたくなります。
だから、この主人公に対する僕の評価は非常に悪いです。リアルな政治の世界を描いたマンガとしては、申し分のない良作だとは思いましたけど、主人公である加治隆介本人に突っ込みどころがあまりにも多過ぎます。
会社や学校にも必ず一人はいるんですよ。自分は出来る側の人間だとクールに自覚しながら生きている奴が。
こういう輩は、さも当然といったような雰囲気で「わかった俺がなんとかしよう」なんてことを、のたまいまくりまくります。あくまで個人的な勝手なイメージですけど、僕みたいなひねくれた人間には、どうしてもそれが鼻についてしまうんです。
昔、友人とチェーン居酒屋で飲んでいた時に、ネイティブな英語の発音をやたらとデカイ声でアピールしながら入店してきた白人男性連れの女性がいたのですが、これなら彼女のように大っぴらに自慢してくれた方がまだ可愛気がある気がします。
なんらかの形で『出来る』ことをアピールしているというのは、まだ『出来る』ということに何処か自信が持てていないから、そうしているわけで、完全なる自信と自覚があれば、そんなことをする必要はどこにもありませんから。
それと、その場所がチェーンの居酒屋だったといううっかり感にも、一定の好感を持てますしね。
でも、この加治隆介はどうひいき目に見たって、そんな可愛気は持ち合わせていない人間でしょう。縁日の金魚よりも救いようがありません。表立ってアピールはしないけれど、自分が出来る側の人間であることを異常なまでに確信しながら生きています。
そうでなければ、序盤の場面で「地元の利益だけを考えることは、世界全体の利益を考えるべき国会議員の仕事ではない」みたいなことを主張するはずありませんよ。
これって、聞こえはいいけど、卒業文集の将来の夢に『世界征服』と書いているのとそんなに変わらない気がしませんか?
しかも、そこに小学生のような茶目っ気なく、自分にはそれが出来ると真剣な顔をして言っているところが、またタチが悪い。
お前の政策で世界の過半数が利益を得ればいいなら、中国やインドなどの人口の多い国の国益を考えるのが、一番手っ取り早いんじゃないということになります。
これでは完全に正義の押し付けでしょう。
こんな奴は政治家としても人間としても、好きになりようがありません。
ただ、主人公への文句だけで飯三杯はいけそうな作品なのに、『加治隆介の議』というマンガ自体は嫌いになれないのが不思議です。
もしかしたら、女房のここが気に入らないと友人に愚痴をぶちまける感覚というのは、これと非常に近いものがあるのかもしれませんね。全体としては愛しているのに、何故か一番目立つ部分に腹がたって仕方がないという。
まあ、まだ結婚してないので説得力はゼロですけど、読んでいてなんだかそんな気がしてしまう作品でした。













